金貨の豆知識
記念貨幣・記念硬貨・記念コインの歴史
国家的行事を記念して発行される特殊な貨幣を記念貨幣といいます。 記念貨幣が硬貨として発行された場合、記念硬貨や記念コインと呼ばれることがほとんどです。記念硬貨、記念コインは長年にわたり世界各国で発行されているため、様々な形、色、歴史的背景のものが数多く現存します。記念硬貨・コインの持つデザインの美しさや、興味深い歴史的背景に魅かれ、それらをコレクションをしている多くの収集家たちが世界各国に存在します。こちらでは記念貨幣の発行された背景などを豆知識として掲載します。
世界最初の記念貨幣を発行した国はローマ帝国でした。ローマ帝国では、その権威を誇示する目的もあり戦勝記念の貨幣を度々発行していました。また多くの場合、貨幣には皇帝や国王の肖像が刻まれていました。新たな君主の即位を記念して記念貨幣が発行されることもあり、近世になるとそのような記念貨幣の発行は増加していきました。記念貨幣の流通によって記念貨幣に刻まれた新しい君主の肖像を広める意味もあったようです。
通常の流通を目的とする貨幣を通常貨幣とよびます。近年、アメリカ合衆国の発行した50州それぞれ異なるデザインの25セント硬貨のように通常貨幣とはデザインの違った硬貨を通常貨幣と同時に流通させる場合があります。通常貨幣と同様の扱いですが、これらも記念貨幣とされています。この他にも、イギリス5ポンド硬貨やユーロ圏諸国の2ユーロ記念硬貨のように、記念貨幣として毎年発行される額面があります。なお通常の5ポンドは紙幣のみで、硬貨は記念貨幣のみとなっています。
第二次世界大戦頃まで、高額硬貨は本位貨幣として金貨や銀貨などの貴金属で鋳造されることが多かったため、記念貨幣も貴金属で鋳造されていました。世界恐慌後、世界各国で金本位制が停止したため、通常貨幣として金貨が発行されることは殆どなくなり、第二次世界大戦後は、通常貨幣だけでなく記念貨幣も銅貨や白銅貨で鋳造されることが多くなりました。1970年以降には、工業需要増大により銀の価格が上昇し、銀貨を通常貨幣として流通させる国も無くなりました。現在では、記念貨幣のみが貴金属で鋳造されています。記念貨幣に使用されている貴金属の殆どは金、銀ですが、プラチナやパラジウムなどが使用されているものもあります。
世界最初のオリンピック開催記念銀貨を発行したのはフィンランドのヘルシンキ大会でした。額面は500マルッカで1951年と1952年の年号銘があり、直径32mm、重量12gでしたが低品位.500の銀貨でした。日本では1964年東京オリンピック記念銀貨が発行され、その人気により記念銀貨発行による収益を大会運営費に当てるまでに至りました。その後、1968年メキシコオリンピックでも記念銀貨が大量に発行されました。以降オリンピック大会開催毎に記念貨幣が発行され、収益を大会運営費に当てることが定着しています。
記念貨幣も法貨であるため、貨幣面に通用額面が表記されてはいますが、収集型金貨同様に、その額面よりもはるかに高額な素材を使用し、殆どの場合、額面よりも高く販売されます。地金型金貨も地金に製造費を上乗せした価格で販売され額面で取引されることありません。それらの中には、毎年異なるデザインで発行されるものもあり、これらも記念貨幣と見なされています。とくにヨーロッパの王国では、王室の慶事を記念して記念貨幣が発行されることが多く、その主な慶事の内容は国王や皇太子の婚儀、国王の即位および戴冠式、国王の長期間の統治、国王夫妻の銀婚式や金婚式などです。
アメリカ合衆国では、1ドルと50セントの記念銀貨、5ドルや10ドルの記念金貨が多く発行されています。アメリカの記念金貨は収集型金貨です。例えば、5ドル金貨(重量8.39g、品位.900)は、一般への売り出し価格は200ドルですが法定通貨としての額面より高いプレミアム価格がつけられています。
近年の記念貨幣は従来の形態だけでなく、変形の記念貨幣も存在し、またカラーコインと呼ばれる着色されたデザインを持つ記念貨幣もあります。近年、日本で発行されている1000円記念銀貨がそれらに該当します。更には、硬貨に宝石を埋め込んだものやクリスタル製の硬貨なども出現しています。これらの記念硬貨も、法定通貨でありメダルとは異なります。
オリンピックやサッカーワールドカップ、万国博覧会では開催国から記念貨幣が発行されることが通例となっていますが、開催国以外でイベントに参加していない国が記念貨幣収集家の購入を目的として、これらのイベントの記念貨幣を発行する場合があります。また自国には存在しない野生生物や外国の世界遺産を紹介するという名目で記念貨幣が発行されることもあります。
このように現在の記念貨幣には、慶事を祝うという記念貨幣ではなく、シリーズでテーマを決めた硬貨を発行するなど、記念貨幣の概念が幅広くなっています。
記念金貨が外貨獲得の手段として用いられる場合もあります。例えば、クック諸島やツバルといった国々で、日本市場向けに日本のアニメーションのキャラクターをデザインした記念貨幣を発行しているほか、1989年にはリベリアから「各国元首記念シリーズ」として昭和天皇の肖像入り記念貨幣が発行されました。2000年にはソマリアから「ミレニアムを象徴する人物シリーズ」として昭和天皇の肖像入り記念貨幣が発行されました。
このようにみても近年、大量の記念貨幣が世界各国で発行されていることは明らかです。実際、世界的なコインカタログStandard Catalog Of World Coinsは19世紀以前と20世紀、そして21世紀の3冊セットからなっています。つまり2001年以降に膨大な記念貨幣が発行されたということです。